脚本作りのアイディア

創作において「何を作るか」を重視している人が多いかと思いますが、それ以前に、私達は「見えるものしか作れない」という原理に気付く必要があります。絵が上手い人は例外なく、被写体の細かい情報が見えています。これは物語創作においても同じで、私達は知っている事や理解出来る事しか描写出来ません。そして、見える世界を鮮明にするために、視野を広げる為に私達は勉強するのです。

以下の内容はあくまで物事を考える為の視点を提供しているだけです。この通りに作れば名作を量産できる、という類のものではありません。結局のところ名作にとって必須な要素とは、視聴者の想像を超えてくる事だからです。クリエイターならではの独自性が無ければ、名作を作る事は出来ません。

これらを踏まえて、以下の内容はシナリオを書く人なら既視の内容も沢山あるはずですが、初見であれば、新しい視点を知る事によって創作のアイディアが湧いてくる事もあるはずなので、それを創作で活かして頂ければ幸いです。

目次

心得

客観性を重視する事も大事ですが、それ以上に主観で魅力的だと思えるような事をやって下さい。自分で魅力的だと思った事を、恥ずかしがる事なく大真面目にやり抜きましょう。時の人となるネットミームを作るような人達は、彼らは誰しも大真面目にコンテンツを作っていたはずです。野々村議員だって、彼は大真面目だったはずです。要塞破壊兵器オーボエを本気で作ろうとしたニコライ二世も、彼は大真面目だったはずです。

世間一般では認められていないから、マイナーだから、隙だらけで非難されやすいからと、物怖じして当たり触りのない事をしていては、視聴者の印象に残る事はありません。新しいモノは世間から叩かれるのが常ですが、四面楚歌の状況で、自分だけでもその魅力を信じ抜いてやれないでどうするのですか。

世界に革命を起こすような大ヒット商品は、今までの市場には存在しなかった、あるいは知られていなかったマイノリティとして始まります。叩かれる事を怖気づかずに、堂々と自身の最高傑作を表に出しましょう。

二次創作の心得

二次創作を行う際、大事なのは原作の魅力を引き出す事を意識する事です。「作家としての個性を出したい」という気持ちは分かりますが、そういった欲が前面に出てしまうと、個性を出す為にやったオリジナリティが余計なノイズとして扱われる事が多いです。そのためまずは原作を尊重して、原作の魅力を見出す事に力を注ぎ込みましょう。

原作と真摯に向き合って二次創作に取り掛かれば「こうすれば、もっと原作の魅力を引き出せるな」と色々とアイデアが湧いてくるはずです。それが独自性であり、そうすれば原作の価値を貶める事なく、そのうえでセカンドクリエイターの作家ならではの個性が付与された、魅力的な二次創作作品を作れるようになります。

視聴者は何を楽しんでいるのか

物語の展開を考えるにおいて、「視聴者は何を楽しんでいるのか」を意識しなければなりません。設定の作り込みが面白いのか、バトルの演出が面白いのか、勘違いの展開が面白いのか、恋愛関係が面白いのか、そういった要素に関してはなんでも良いのですが、第三者からこの質問を受けた場合に、解答をすぐに答える事が出来ない場合は、それは作品として失敗作である事の証明です。

言葉で説明する事が難しい挑戦的な作品を作るとしても、その魅力の全てではなく、一部でも構わないので、魅力を言葉で説明する事は絶対に出来るはずです。そもそもこれが説明出来ないという事は、作品の拘りが無いという事を意味します。作者の拘りが無い、思い付きで作るような作品では、人の心を動かす事は出来ません。

四つの魅力

「視聴者は何を楽しんでいるのか」の要素は、大きく分けると四つに分類できます。それが「リアリティ」「欲望」「個性」「コメディ」の四種類です。

ちなみに「共感」に関しては上記四つの要素全てに含まれています。

リアリティ

「リアリティ」とは「本当にその場にいるかのような体験をしている」「本当に現実であった事かもしれない」と思わせる事で魅力を感じさせる要素の事をいいます。秀才的な魅力の事でもあり、グラフィックの細かさ、世界観の重厚さ、あるいはホラー映画のように大きく心を揺さぶられるような体験といったものが該当します。

ゲームで例えるならFIFAやCoD、世界観の重厚さならスカイリムが分かりやすい例です。また先ほど例にあげたホラーはもちろん、推理モノ、ミステリー、恋愛といったジャンルも、その没入感を高めて質の高い作品を作る為にはリアリティが求められます。そして真実味のある描写を行う為には事前の調査が必要になる場合が多いです。

人を感動させて涙を流させるような演出を作る為にもリアリティが必須です。没入感無しで人が感動して泣くような事はありません。

欲望

「欲望」とは生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求といった人の欲求を満たす事を目的とした要素のことをいいます。分かりやすいのが「なろう系」です。敵を倒して無双する、スゴイ人達から愛される、チートを獲得して力を振るう、権力を獲得して民を奴隷のように支配する、ハーレムを築いて性欲を満たす、魔王を倒して多くの人から認められる、悪いヤツをやっつける、イヤなヤツを見下す等、このような様々な欲求を満たす事を作品の魅力とします。

きららアニメのような波が無い日常系の場合は安全欲求、解説動画は知識欲に分類出来ます。最近のコンテンツで「てぇてぇ」が求められるのも、人の繋がりという社会的欲求に飢えている人が多いからでしょう。

ギャンブルのように先が気になる展開を演出して、視聴者の射倖心を煽るのも、魅力的な作品を作る為の手法の一つです。

個性

「個性」とは作品を識別する役割を果たす「定番」のことをいいます。例えばドラゴンボールの「かめはめ波」、魔法少女の変身シーン、歌舞伎の見得、狂言の道化的な振る舞いといった、他のコンテンツとの差別化を意識して、あえて変な事をやる事で、視聴者に特定のコンテンツを認識させて、これを好きになってもらう事で魅力を感じてもらうという工夫です。

物語を作るうえでのテーマや哲学も、個性に分類出来ます。

定番に魅力を感じてもらう事が出来れば、定番を繰り返す事で視聴者がコンテンツに没入しやすくなり、安心感を覚えて楽しんで貰う事が出来るという強みがあります。また個性の場合はただ視聴者を楽しませるというだけではなく、他の要素と比較して、布教する為の武器にしやすいという強みもあります。

ただし定番が嫌われた場合、この認識を覆すのは非常に困難です。例えるなら「異世界モノが嫌いな人に、異世界モノを好きになってもらうのは難しい」といった感じでしょうか。個性には、このような諸刃の剣的な性質もあります。

コメディ

「コメディ」とは人を笑わせることを主体とした、笑いを誘うやりとりによって魅力を感じさせる要素のことをいいます。分かりやすいのはギャグマンガ、お笑い芸人の脚本のことです。常識ではやらない事をやった時に人は笑う事が多いのですが、しかし飛躍しすぎて共感するのが難しくなると、それは「個性」として認識されて、コメディではなくなります。

つまりコメディでは可笑しい事が求められるのですが、共感をおろそかにすると視聴者は笑う事が出来ません。コメディとしての魅力を演出するなら、ただ可笑しいというだけではダメで、私達にとって共感出来る内容にする必要があります。

何の魅力を意識しているのか

創作活動を行う場合、どれか一つの要素だけを扱うのではなく、上記の四つの要素を併用して創作活動に取り組む事が多いはずですが、大事なのは、今、何の魅力を扱って創作をしているのかを意識する事です。

細かい絵の描写によって没入感を高めようとしているのか、セクシーな美少女の肢体を描く事で性欲に訴えようとしているのか、あえてキャラクターに変な特徴を入れて「定番」を作ろうとしているのか、可笑しいがどこか共感してしまう構図を作る事で視聴者を笑わせようとしているのか、状況によって何の魅力を扱っているのかは異なるはずです。

アバウトに「面白いものを作れ」と言われても、「面白い」って何なのかがよく分からないはずです。なんとなくで作ったら、なんとなくで評価する事になって、その魅力を精査する事が出来なくなります。「今の創作では何を目標にしていて、その目標達成において十分な仕事が出来ているのか」を意識して創作に取り組めば、質の高い作品を作りやすくなるでしょう。

視聴者は何に共感しているのか

物語を抽象的に捉えた時に、普遍的なテーマが含まれていた方が、視聴者が物語の展開を受け入れやすくなります。例えばONE PIECEの概要は「主人公のルフィが海賊王を目指す物語」ですが、これの抽象度を上げると「夢を追い求める物語」と捉えることが可能です。

夢に向かって努力するというのは、ほとんどの人が共感することが可能な普遍的なテーマであるため、「海賊王」という創作性のある設定を混ぜたとしても、視聴者が共感出来るようなリアリティのある物語を作ることが可能になるわけです。

キャラクターの目標意識

物語を作る際は、舞台設定と主人公の行動の目的を明確にする事を意識しましょう。短編にせよ長編にせよ、どのような設定の舞台で、主人公は何者なのかが理解しにくいと、視聴者は感情移入が出来ません。

とはいえ最初から全ての情報を明らかにする必要はありません。例えば進撃の巨人では「壁に囲まれた都市の住人が壁外の巨人と戦う物語」という分かりやすいテーマが序盤で用意されていましたが、これが全てでは無い事は、観た事のある人ならご存知のはずです。

ところで、もし最初の時点では何の目的もない、何の特徴もない、やる気が無い主人公として始まる物語を作りたいなら、序盤では主人公よりも、主人公以外の周囲の状況に視聴者の焦点を引き付ける事を意識して物語を構成するのがオススメです。この形式の物語は基本的には「巻き込まれ系」になるはずなので、その起点となる対象に描写のリソースを割くことで、視聴者の記憶に残るような場面を演出しましょう。

敵と味方

味方役よりも、敵役の設定に拘った方が良いです。人狼ゲームにおいて推理を面白くする為には、人狼や狐といった人外役が如何に暴れまわるのかにかかっているように、物語世界を盛り上げるのは敵役の役目だからです。

その具体的な方針として、物語を作る場合は味方サイド、敵サイドの双方に物語上の目的を用意すると良いのですが、味方サイドには視聴者が簡単に理解しやすい単純な目的を用意し、敵サイドには複雑な事情や、哲学的で難解な目的を用意するのをオススメします。敵側の情報量を多くする形で舞台設計を行うと物語が作りやすいです。

こうすると、物語世界に没入し易くて、考察のし甲斐があって奥行きのある物語を作りやすくなります。それから敵サイドの事情が複雑だと、敵サイドが人とは思えないような残虐な行為に手を染めたり、主人公を見逃したりといった、パッと見ではサイコパスに見える行動や、非合理的な行動を取るもっともらしい理屈を用意する事が出来たりします。

そして物語が進行していくと、主人公の視野が広がっていく事によって、主人公の行動も複雑化していくというのが鉄板の物語構成です。

戦う理由

戦いが発生する理由は大きく分けて3つに分解されます。

一つ目は戦いたいから戦う事です。これはスポーツの試合やデスゲーム等が該当します。最近だと戦闘訓練を行うような学校の授業という設定で、この理由による戦闘が行われるのをよく見かけます。この理由の場合は人のコミュニケーションというよりも、どれだけ質の高い設定を作る事が出来たのかで評価されやすく、このタイプの戦いで会話が長い場合は、設定の説明で長尺を使っている事が多いです。具体的な作品で例えるなら、HUNTER×HUNTERでよく頻出されます。

二つ目は現状を維持する為に戦う事です。守りたいモノを持っている者が、自身の安泰を守る為の戦いです。これは街を守る魔法少女や、戦隊もののヒーローが該当します。悪の侵略に対するカウンターとしての戦いであり、ほとんどの物語における、主役が戦う動機はこれです。

三つ目が現状を変える為に戦う事です。持たざる者が、希望を抱いて世界に挑戦する為の戦いです。具体的な作品で例えるなら、ONE PIECEでよく頻出されます。広義的には恋愛もこれに該当します。敵役の戦う動機として採用される事が多く、主役なら復讐ものや、ダークヒーローもので採用される事が多いです。

二つ目、三つ目に関しては、バトルそのものというよりは、コミュニケーションの延長としての戦闘という扱いをされている事が多く、バトルの描写が雑でも、会話の内容や戦いの導入のクオリティが高いと評価されます。このタイプの戦闘が物語として面白くなっているかどうかを客観的に評価する為の手法として、戦闘描写抜きで面白い内容になっているかどうかを確認してみましょう。それで面白いと思えなければ、練り直しです。

それから物語の序盤は「三つ目の理由」で主人公が戦っていたにも拘わらず、守るモノが出来てから「二つ目の理由」に転向するというパターンも多いです。ブラックボックスの中身を知ってしまったり、行動の制約が出来ると人は変わります。

敵の被害者を用意する

先述の戦いが発生する理由の二つ目、三つ目の補足として、これらのタイプのバトルの場合は「なぜ敵は敵として認識されているのか」を視聴者に伝えなければ、視聴者が感情移入をしにくくなります。

初めて物語を楽しむ視聴者にとっては味方も敵も、どちらも赤の他人です。興味のないスポーツの勝敗に私達は関心がないように、彼らだけで勝手に盛り上がっていたとしても、私達にとっては他人事であり、どうでもいい事でしかありません。HUNTER×HUNTERのようにスポーツの内容自体に興味を持ってもらうという戦略もあるのですが、そのやり方を成立させるには、他作品との差別化が可能な強力な個性が必要です。

これが難しい場合、バトルに対して視聴者に興味を持たせる為にはどうすれば良いのかというと、その手っ取り早い方法が一つあります。それが敵の行動によって不幸になってしまった「被害者」を用意する事です。その被害者は主人公自身でも構いません。

「正義は最大の娯楽」とはよくいったもので、悪者を正義ぶって叩く事が皆大好きです。例えるなら、自分と無関係な赤の他人の不祥事を、親の仇とばかりに叩く人間がSNSには沢山いると言ったら分かりやすいはずです。その心理を利用した手法としてこれを紹介します。

無駄を排除しよう

役割が無い余分なキャラを作るのは構わないのですが、冗長になるなら使わない方が良いです。キャラクターが多ければ多いほど、視聴者が作品を楽しむ為に覚える情報量が増えるため、余分なキャラは作品が面白くなるわけではないのに、物語を理解する難易度だけは上がるという事態を引き起こし、作品を取っ付き難いものにしてしまいます。

特定のキャラクターが存在する事で、どのような生産性があるのかを意識しましょう。ちなみに二次創作が何故優れているのかというと、既に周知のキャラを使うことで、視聴者が覚える情報量を減らす事が出来るので、物語を取っ付きやすいものにする事が可能だからです。

「設定」はイベント創出の為にある

余分なキャラと同じように、余分な設定も冗長になるなら使わない方が良いです。例えば主人公が最強スキルを100個くらい獲得して、使いもしないのに設定を一つずつ長々と説明しているような作品があったとしたら、厨二病的な内容が好きじゃないなら、そんな事をされたら眠気が走ります。というより、無駄に情報量が多いと視聴者の印象に残りません。

情報量が多すぎると、ドラゴンボールにおける「かめはめ波」「仙豆」のような定番を作る事が出来なくなります。また面白い作品の能力バトルは、ちゃんと設定に役割があって、読者が主人公の能力に興味を持たせる為の仕掛けを作っている事が多いです。

例えばドラゴンボールであれば、悟空を勧誘しに来たラディッツと痛み分けして、現状ではそれ以上に強いサイヤ人と戦ったら勝てそうにないから、界王拳という最強スキルを修行で身に付けて、再び敵と相まみえるといった感じでしょうか。視聴者の印象に残る設定を作りたいなら、イベント創出の為の設定を作る事を推奨します。

キャラクターの哲学

私達は物語において、原理としては人のコミュニケーションを見て楽しんでいます。武力による戦いに関しても、相手がいなければ戦いは成立しません。設定を作る場合に、設定を作るだけで満足するのではなく、この設定によってキャラの言動にどのような影響を与えるのか、どのような人間関係が形成されるのか、どのようなイベントが起きるのかといった、設定の為の設定よりも、人とのコミュニケーションで反映する為の設定を作った方が生産性は高くなります。

「この物語を作りたくて、この役割が必要だから、この設定を追加する」というやり方でキャラの設定を決めていくと、自然と、独自性と奥行きのある魅力的なキャラクターを作れます。飾らずに言うなら、物語を作る為の舞台装置としてキャラを作った方が、役割の無い余分なキャラを作る事なく、上質な物語と魅力的なキャラクターを作りやすいです。

キャラクターの「信念」

キャラクターを作る時は、キャラクターがどのような「信念」で動いているのかを決める事を推奨します。例として「学年一位の秀才」という設定がキャラの構成において重要な要素であった場合、何故このキャラはこの設定に拘る必要があるのかの、キャラの内面を深掘りすると良いかもしれません。

例えば家が貧乏で特待生の地位を維持する必要があるとか。例えば学年一位という称号を持つことで周りからチヤホヤされたいとか。例えば自分に自信が無いために一つの大きな成果に執着してしまう性格であるとか。教科書を一目見れば、一瞬で全てを記憶できる天才だったりとか。一位を取ることが重要だったとしても、その理由はキャラによってそれぞれ事情が異なるはずです。

何故このキャラはこのように動くのかという行動原理、即ち「信念」を決めておくと、キャラに合わせたセリフを作りやすくなって、視聴者がキャラのアイデンティティを理解しやすくなって、印象に残りやすくて生産性の高い魅力的なキャラクターを作れます。

キャラクターの「ギャップ」

悪役であったとしても、ギャップを用意すると魅力的なキャラクターを作りやすいです。例えば権力をかさに着て上から目線でパワハラしてくるクソ野郎が、家に帰ったら子供に激アマで妻には頭が上がらない、家庭を大事にするパパだったりとか。例えば民衆の大虐殺をするような魔王として怖れられている男が、実際に会ってみたら温厚篤実で尊敬できる偉大な人だったりとか。

人間関係が変われば言動や態度が変わるのは普通のことであり、流れている噂と実物が全く違うなんていうのもよくある話です。その色々な顔を見る事が出来ると、キャラクターがより奥深いものになります。

ボディーランゲージ

ボディーランゲージを意識しておくと、質の高い表現をしやすくなります。例えば相手を叱りつける時に、腰に手を当てて目線を合わせて発言するのと、腕を組んで相手を見下しながら発言するのと、机に肘をついて明後日の方向を見ながら発言するのとでは、同じ発言内容だったとしてもニュアンスが全く違うものになります。受け手の印象も、この後の物語の展開も大きく変わる事になるはずです。

「栄光」の概念

キャラの行動原理を考えるうえでのアイディアとして、「栄光」の概念について説明します。「栄光」とは名誉の事なのですが、私達が「栄光」という概念に惹かれるのは何故なのかというと、その理由は「信仰の価値を高める事によって、自身の存在価値を上げる事」にあります。「栄光」とは利己的な目的によって、利他的な事をする価値観ともいえます。

もし人間が死んでしまった場合、大多数の人間は歴史に名を残す事が出来ません。人々に忘れ去られてしまったら、死んだらただの燃えるゴミです。どれだけ事業で成功して大金を得られたとしても、死後の世界に大金を持っていく事は出来ませんし、時が経って事業自体が消滅して、これが人々の記憶から忘れ去られてしまったら、自分の生きた証は消えてしまいます。しかし、どうしても自分の生きた証を未来に残したいと思った場合、何をすれば良いでしょうか。

手っ取り早い方法は、繁殖して自分の子孫を残す事なのですが、自分の生きた証を残す方法は他にもやり方があります。それが共同体に属して、その生存に貢献して、自分の代わりに共同体に生存してもらう事です。

もし戦争で撃ち殺されて死んでしまったとしても、自分が戦ったおかげで国家という共同体が生存するなら、自分と同じ国民が自分の代わりに生存し続けて、場合によっては自分の生きた証が記録されて残る事もあります。抽象的に捉えれば、共同体が存続する限り、自分が生きた痕跡を死後も残し続ける事が出来るわけです。つまり「栄光」とは「生きた証を後世に残す事に重きをおいた価値観」のことをいいます。「信仰は死なない、だから俺も死なない」という論理構造であり、アリやミツバチの世界にも通ずる、社交的な動物ならではの生存戦略の一つです。

これは日本の武家社会における「切腹」と「斬首」の違いを考えると理解しやすいです。武家社会で「切腹」で死ぬのは「武士として死ぬ」という事を意味し、「斬首」で死ぬのは「罪人として死ぬ」という事を意味します。死ぬことに変わりないのに当時の人々にとって「切腹」の方がマシだとみなされたのは、死んだ後に家が存続するかどうかという実利的な理由もあったはずですが、「栄光」の価値観があったからだとも解釈出来ます。

要するに、自分の存在証明をして気持ちよく死ぬ為に「栄光」という概念はあります。

そして「栄光」という政治的なロジックを信じて、死を身近に意識すると、人の精神性は肉体を離れ、大いなる大義に基いた、強固な理性を原動力として行動出来るようになります。だからこそ人間は自爆テロを起こしたり、コミュニティに属す事に拘って殉教を選んだりする事があるわけです。

動物的な本能に従って自身の生存を優先させる人間には、「栄光」という思想に従って自分の命を犠牲にするような判断を下す事は不可能です。ちなみに今の自衛隊はどうか分かりませんが、大日本帝国軍は兵士達に「死の崇拝」を説いていたそうですし、日本の武士とは「如何に死ぬか」意識して戦っていたからこそ、死を恐れない大胆な行動を取れて強かったそうです。

注意点として、上記はあくまで私のリアリズム的な解釈なので、何も考えずに鵜呑みにするのはやめて下さい。

「無能な権力者」とは何なのか

人間は意外と無能です。「自分は安泰で特別な人間だ」と思い込めるような環境にいるほど、能力や才能に関係なく人間は馬鹿になりがちです。

現場や時代の流れを知らない知識不足、過去の栄光や成功方法を妄信した自信過剰、安泰の立場を脅かさない為には何もせずに変化しない方が都合が良いという保守的な姿勢、そうなってしまう理由は色々とあるのですが、共通しているのは、成長する意欲を無くした人間が無能になるという点です。

そして理解出来ないものを排除しようとして、逆に自らが滅ぼされたり衰退するというのが歴史上繰り返されてきた出来事であり、これは物語の悪役の王道パターンの一つでもあります。

人を理解する為の知識としてのMBTI

ユング心理学、及びMBTIの考え方を理解していると、個性あるキャラクター作りをするにおいて、あるいはキャラクターの行動を予測するにおいてとても便利です。MBTIとは作家によって作られた理論であり、これを生産的に活用するのであれば、創作活動でその真価は発揮されます。人という複雑な概念を理解するには、既存の形式を活用した方が合理的です。「こんな人間も存在する」という知識を持っておくことをオススメします。

オススメの学問

地球の歴史は話のネタの金山です。「事実は小説よりも奇なり」とはよく言ったもので、話のネタに困ったら、歴史の中から面白そうな出来事を探ってみるのも手段の一つとしてアリだと思います。どれだけ技術や思想、経済が発展しようと、人間の本質は変わりません。リアルな演出を作りたいなら、リアルを学びましょう。

人間の歴史は戦争だらけですが、原則として、戦争が目的で戦争をしているような戦闘民族は基本的に存在しません。戦争をすると文化や資産が破壊され、経済的な負担も大きく、多くの働き手が死んで税収も減るので、戦争をしなくて済むならそれが最適解です。しかし、それでも人間が戦争するのは何故なのか、誰がどのような思想で戦争に参加していたのか、大軍を率いて戦争で勝つ為に人間はどのような手法を使ってきたのか、その原因や過程に注視して考察すると、人間の本性や叡智が見えて面白いです。

それから凶悪犯罪の歴史に関しても、「こんな悪いヤツは死んで当然だ」という短絡的な考え方で終わって思考停止するのではなく、これを創作で活かすなら、「何が彼をそうさせたのか」「何をしたから悪いヤツだとみなされてしまったのか」を公平な目線で偏見無しで深掘りして考える事が重要です。そうして得られた自分なりの解答に、独自の作家性が宿ります。

ところで、もしクリエイターとしての視野を広げる為に学問を修めるなら、他には「地政学(地理)」「民族学」「心理学」「神学」「哲学」をオススメします。特に「神学」は民族の価値観の根幹の部分を司ります。「神学」があったからこそ、人間は価値観を共有して、お互いを信用出来るようになりました。魅力的なキャラクターを作る為にも、人を理解する為にも「神学」を一押しします。

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